私がなぜこのクリニックを作ったのか

私がなぜこのクリニックを作ったのか

コラム

必要な緩和ケアを、必要な人に届けたい

私はこれまで、緩和ケア医として、多くのがん患者さんとそのご家族に関わってきました。


国保中央病院では、奈良県で初めてとなる緩和ケア病棟の立ち上げに携わりました。その後、奈良県立医科大学附属病院では緩和ケアセンター長として、がん治療中の方から人生の最終段階にある方まで、さまざまな患者さんの身体とこころのつらさに向き合ってきました。


緩和ケアというと、今でも「がんの治療ができなくなってから受けるもの」「最期の時期に受けるもの」というイメージを持っている方が少なくありません。


しかし、本来の緩和ケアはそうではありません。


緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断された時から、治療と並行して受けることができます。
痛みや息苦しさ、吐き気といった身体の症状だけでなく、病気になったことへの不安、これからの生活への心配、ご家族の悩みなど、その人が抱えているさまざまな「つらさ」を和らげ、その人らしく生活できるよう支えていくことが緩和ケアです。


私は診療を続ける一方で、こうした緩和ケアについて多くの方に正しく知っていただくことも大切だと考え、YouTube「ドクタートッシュ 緩和ケアの本流」を通じた発信も続けてきました。
現在では16万人を超える方に登録していただき、患者さんやご家族だけでなく、多くの医療者の方にも緩和ケアについてお伝えする機会をいただいています。


しかし、そうした活動を続ける中で、私の中で次第に大きくなっていった問いがありました。


「緩和ケアを必要としているすべての人に、本当に必要な緩和ケアが届いているだろうか?」


痛みや息苦しさを抱えながら生活している方。
抗がん剤や放射線治療を続けながら、副作用や不安に悩んでいる方。
病院への通院が難しくなってきても、「できることなら住み慣れた家で過ごしたい」と願っている方。
そして、大切な人を自宅で支えたいと思いながらも、「自分たちだけで本当に大丈夫だろうか」と不安を抱えているご家族。


こうした切実な声を、私はこれまで何度も耳にしてきました。
そして今も、同じような悩みを抱える方から、毎日のように相談が寄せられています。


病院で診療をしているだけでは、そうした方々すべてに必要な緩和ケアを届けることはできません。
YouTubeで緩和ケアについて伝えるだけでも、もちろん十分ではありません。


それならば、私自身が患者さんのもとへ行こう。
そう考えるようになりました。


住み慣れたご自宅であっても、医療用麻薬や持続皮下注射などを用いながら、痛みや息苦しさをしっかりと和らげることができる。


がんの治療中であっても、つらい症状やこころの苦しみについて相談することができる。


病状が変化した時には、大学病院や地域の病院、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどと連携し、その方にとって必要な医療を一緒に考えることができる。


そして、「最期まで自宅で過ごしたい」と願う方には、その希望をできる限り叶えられるよう支えていく。


病院や緩和ケア病棟で長年行ってきた緩和ケアを、今度は患者さんの暮らす場所へ届けていきたい。
そんな思いから、「しのみや緩和ケア内科クリニック」を開院しました。


奈良を「緩和ケアの聖地」に


私が目指しているのは、単に一つのクリニックをつくることではありません。


まずは奈良を、「緩和ケアで困らない地域」にしたい。
そして、もっと大きな目標を言えば、奈良を「緩和ケアの聖地」と呼ばれるような地域にしたいと思っています。


ありがたいことに、私の周りには素晴らしい医療者がたくさんいます。


患者さんの暮らしに最も近いところで、在宅療養を支えてくれる訪問看護師。
薬の専門家として、時には医師にも提案やアドバイスをしてくれる薬剤師。
そして、病院の医師や看護師、ケアマネジャー、介護職など、それぞれの専門性を持った人たちが地域にはいます。


私は、こうした人たちがそれぞれの力を発揮し、職種や組織の垣根を越えてつながることができれば、奈良の緩和ケアはもっと良くなると考えています。


がんと診断された時。
治療を続けている時。
通院することが難しくなった時。
そして、人生の最終段階を迎えた時。


病気のどの段階にいても、どこで過ごしていても、つらい時に「ここに相談すれば大丈夫」と思える場所がある。


そして、病院、診療所、訪問看護、薬局、介護などがつながり、その人とご家族を地域全体で支えていく。


私が考える「緩和ケアの聖地」とは、そんな地域です。


まずは、ここ奈良でその形をつくりたい。
そして、奈良で実現することができたなら、その仕組みをいつか全国へ広げていきたいと考えています。


住んでいる場所によって、受けられる緩和ケアが大きく変わってしまう。


「緩和ケアを受けたいのに、どこに相談すればいいかわからない」
「家で過ごしたいけれど、それを支えてくれる医療がない」


そんなことで困る人を、一人でも減らしていきたい。


「緩和ケアを受けたい」と願うすべての人に、必要なケアが届く社会をつくる。


それが、私がこれからの人生をかけて取り組んでいきたい、ライフワークです。


緩和ケアを、皆さまの暮らしの中へ


病気になっても、その人の生活は続いていきます。


大切な人と食事をすること。
家族と話をすること。
好きなテレビを見ること。
いつもの部屋で眠ること。


そうした一つひとつの時間も、その人にとって大切な人生の一部です。


治療中の方も、ご自宅で療養されている方も、そのご家族も。
つらいこと、不安なこと、どうしたらいいかわからないことがあれば、どうぞ私たちに相談してください。


私たちしのみや緩和ケア内科クリニックは、「歩くホスピス」として、これまで病院や緩和ケア病棟で培ってきた緩和ケアを、皆さまの暮らしの中へ届けていきます。


そして、あなたとご家族が何を大切にして生きていきたいのかを一緒に考え、その人らしい時間を過ごせるよう、そばで支え続けたいと思っています。