
左から、御幸の漢方 代表薬剤師 岩井孝明先生、私、御幸の漢方 岩井正憲先生
以前のコラムで、大阪市にある漢方専門薬局「御幸の漢方」の岩井正憲先生との出会いをご紹介しました。
岩井先生とは、当クリニックのホームページを通じてご縁が生まれました。
直接お話をするなかで、漢方や生薬に対する熱意に触れ、「ぜひ一度、実際の現場を見てみたい」と思うようになりました。
そこで9月26日、当クリニックの事務長、看護師とともに、御幸の漢方を見学させていただきました。
当日は、代表薬剤師の岩井孝明先生と岩井正憲先生から、生薬の特徴や選び方、煎じ薬が患者さんのもとへ届くまでの工程について、詳しくお話を伺いました。

大阪市鶴橋にある漢方専門薬局 御幸の漢方
壁一面に並んだ質の高い生薬
薬局に入って最初に圧倒されたのは、壁一面に並んだ数多くの生薬でした。
一つひとつの瓶に異なる生薬が収められ、その姿や色、香りもさまざまです。

薬局内の壁一面に並ぶ生薬
実際に生薬を手に取り、香りや味を確かめながら説明を受けました。
なかでも印象に残ったのが、紅参です。
見せていただいた人参は非常に太く、切片からも、丁寧に選ばれた質の高い生薬であることが伝わってきました。
この紅参は確かな品質を保つために長野で作られている日本産でもあります。

見学時に説明を受けたさまざまな生薬と紅参(右下)
漢方薬は、同じ名前の処方であっても、使われる生薬の品質によって違いが生まれます。
エキス製剤と比べると、自費の煎じ薬は費用負担が大きくなる場合があります。
しかし今回、実際の生薬を見て、その背景には品質への明確なこだわりがあるのだと感じました。
薬局内で煎じ液体の状態で届ける
もう一つ驚いたのは、選んだ生薬を薬局内の設備で実際に煎じ、液体の状態で提供していることです。
煎じ薬は、本来であれば患者さんが自宅で毎日煎じなければなりません。
しかし、火加減や時間、水の量などによって出来上がりに差が生じることがあります。
また、体調の悪い患者さんにとって、毎日煎じ続けること自体が大きな負担になる場合もあります。

薬局内で煎じ薬を調製する様子
御幸の漢方では、その工程を薬局が担っています。
一定の条件で煎じた液体を一包づつパックで受け取ることができるため、患者さんの手間を減らし、日々の生活のなかでも続けやすくなります。
見学の際には、さまざまな煎じ液を実際に試飲させていただきました。
漢方薬は「苦くて飲みにくい」という印象を持つ方も多いと思います。
しかし、今回いただいたものは、私がこれまで口にしてきたエキス製剤と比べても飲みやすく、これなら毎日続けることもそれほど苦にならないのではないかと感じました。
薬は、処方されるだけでは意味がありません。患者さんが実際に飲み続けられることも、とても大切です。
患者さんに合わせて組み立てる漢方
御幸の漢方では、ただ決められた漢方薬を販売するのではありません。
患者さんの現在の症状や体質、生活の様子などを丁寧に聞き、その方に合わせて生薬の内容を組み立て、調合されています。
この「その人をよく知る」という姿勢は、私が大切にしている緩和ケアとも共通しています。
同じ病気であっても、つらい症状や生活上の困りごとは一人ひとり異なります。
病名だけを見るのではなく、その人の身体とこころ、生活全体を見ながら、何が必要なのかを一緒に考える。
御幸の漢方の質の高さは、生薬そのものだけでなく、患者さんの話を丁寧に聞き、個別に内容を考える姿勢によっても支えられているのだと思います。
がん治療中の患者さんを支える補剤
私自身、以前は、終末期の患者さんに漢方薬を使う場面は限られていると考えていました。
しかし、大学病院でがん治療中の患者さんに漢方薬を活用している医師たちの姿を見て、考えが変わりました。
以来、私も補中益気湯、人参養栄湯、十全大補湯などのエキス製剤を診療に取り入れ、YouTubeでも漢方薬や「補剤」という考え方についてお話ししてきました。
補剤とは、病気や治療によって低下した気力や体力を補う目的で使われる漢方薬です。
抗がん治療を続けるためには、治療薬だけでなく、食べる力、動く力、眠る力など、患者さん自身の体力を保つことも大切です。
倦怠感や食欲低下が続き、体力が落ちてしまうと、予定していた治療を続けることが難しくなる場合もあります。
今回の見学を通じて、患者さんの状態に合わせて質の高い生薬を選び、煎じ液として届ける漢方には、治療中の患者さんの体力や生活を支える選択肢としての可能性があると、あらためて感じました。
標準治療に代わるものではありません
一方で、漢方薬は、手術、抗がん薬、放射線治療などの標準的ながん治療に代わるものではありません。
また、「天然のものだから安全」というわけでもありません。漢方薬にも副作用があり、抗がん薬やほかの薬との相互作用が問題になることがあります。
すべての患者さんに同じ漢方薬が適しているわけでもありません。
特に、がん治療中の方や複数の薬を服用している方は、自己判断で始めるのではなく、現在受けている治療や服用している薬を主治医と薬剤師の双方に伝えたうえで、相談することが大切です。
漢方薬を「がんを治すもの」としてではなく、患者さんが治療や生活を続けるための身体を支える一つの選択肢として、適切に取り入れていく必要があります。
患者さんのお役に立てる選択肢を増やしたい
私は緩和ケアを通じて、患者さんとご家族のお役に立ちたいと考えています。
そのために必要なのは、西洋医学だけにこだわることでも、漢方だけに期待することでもありません。
それぞれの良いところと限界を理解し、その患者さんにとって必要な方法を一緒に考えることだと思います。
今回、岩井孝明先生、岩井正憲先生から、生薬へのこだわりと、患者さん一人ひとりに向き合う姿勢を直接伺うことができました。
御幸の漢方と出会えたことで、患者さんのお役に立つための新しい選択肢が一つ増えたように感じています。
このご縁を大切にしながら、今後も患者さんとご家族にとってより良い方法を、ともに考えていきたいと思います。
しのみや緩和ケア内科クリニック
院長 四宮 敏章
関連リンク
御幸の漢方 (HP)
人とのつながりから広がる緩和ケア (以前のコラム)
漢方薬 がん治療に超有用 補剤という考え方 (YouTube)
がん治療中の症状にどんな漢方薬が使われるのか (YouTube)
参考情報




