最近、実際に訪問診療を始めてから、私が強く感じていることがあります。
それは、本当に良い時間を自宅で過ごしたいのであれば、できるだけ早い時期から、少しずつ準備を始めておくことが大切だということです。
ただ、早めに準備するといっても、すぐに訪問診療を始めたり、自宅で最期まで過ごすと決めたりする必要はありません。
まずは、在宅ではどのような医療や支援を受けられるのかを知り、いざというときに相談できる在宅医や訪問看護師とつながっておく。それだけでも、患者さんとご家族の安心は大きく変わります。
がんの訪問診療はいつから相談すればよいのか
患者さんやご家族から、「訪問診療は、いつからお願いすればいいのでしょうか」と聞かれることがあります。
結論から言うと、訪問診療が必要になってからではなく、「今後、必要になるかもしれない」と思った段階で、一度相談していただくのがよいと思います。まずは、今通っている病院の主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーに相談してもよいですし、当クリニックのように在宅医療を行うクリニックへ直接相談していただいてもかまいません。
今後、必要になるかもしれない」と思った段階とは、例えば、痛みや息苦しさが出てきたとき。通院が少しずつ負担になってきたとき。今後も抗がん剤治療を続けられるのか、主治医から話があったとき。あるいは、「できれば最期まで自宅で過ごしたい」と考え始めたときです。
このような時期は、まだ実際に訪問診療を始めなくてもかまいません。しかし、在宅ではどのような医療を受けられるのか、誰が支えてくれるのか、急に状態が変わったらどうするのかを知っておくだけでも、その後の安心感は大きく変わります。
治療が終わってからでは間に合わないことがある
近年は、がん治療の進歩によって、以前よりも長く治療を続けられるようになりました。これは、とても喜ばしいことです。
しかし、その一方で、治療を終えることになった時点で、患者さんの病状がすでにかなり進んでいることも増えてきました。
治療が終わってから、ゆっくり在宅療養の準備をしようと思っていても、その時間が十分に残されていないことがあるのです。

この図は、がん患者さんが積極的な治療を終えてから、最期の時を迎えるまでに、体調や日常生活動作がどのように変化していくのかを表したものです。
がんの場合、積極的な治療を続けている間は、比較的元気に過ごせることが多く、体調の変化が外からは分かりにくいことがあります。
しかし、治療を終える時期を境に状態が急に変わり、約1か月ほどの短い期間で、歩く、食べる、入浴する、トイレへ行くといったことが難しくなる場合があります。
図の左側に示した「考える時期」は、自宅でどのように過ごしたいのか、誰に支えてもらうのかを、患者さんとご家族が話し始める時期です。状態が落ちてから慌てて考えるのではなく、まだ体調が保たれているこの時期から準備を始めることが大切です。
この経過については、私のYouTubeでも「亡くなる人の不思議な前兆」という動画で詳しくお話ししています。あわせてご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=Q8AnC2swFiQ
このように、治療終了後の変化は、患者さんやご家族が想像しているよりも速いことがあります。
だからこそ、治療が終わってから準備を始めるのではなく、まだ治療を続けている段階から、少しずつ先のことを考えておく必要があるのです。
状態が悪くなってから在宅医や訪問看護師を探し始めると、患者さんが自宅で何をしたいのか、何を大切にしたいのかを十分に伺う前に、病状が進んでしまうことがあります。
本当に良い時間を自宅で過ごすためには、まだ体力があり、ご本人が希望を話せるうちから、少しずつ準備を始めることが大切です。これは、私が実際に訪問診療を行うなかで、改めて感じていることです。
早めの相談は治療を諦めることではない
「在宅医に相談すると、もう治療をやめなければならないのではないか」と心配される方もいます。
しかし、がん治療と緩和ケアは、どちらか一方を選ぶものではありません。
治療を続けながら、痛みや息苦しさ、倦怠感、食欲低下、治療の副作用について相談することができます。
これからの生活への不安を、ご家族と一緒に話すこともできます。
早い段階から、今後の療養について在宅医や緩和ケア医に相談する目的は、自宅で最期まで過ごすと今すぐ決めることではありません。
自宅、病院、緩和ケア病棟という選択肢を知り、病状や希望が変わったときに、その時点で最も良い場所を選べるようにしておくことです。
一度決めた療養場所を、途中で変えてもかまいません。大切なのは、選択肢を知らないまま時間が過ぎてしまわないことです。
私が治療中からの緩和ケア外来を行う理由
しのみや緩和ケア内科クリニックでは、訪問診療だけでなく、がん治療中の患者さんを対象とした緩和ケア外来も行っています。
それは、患者さんが弱ってから初めて会う医師ではなく、まだ元気なうちから、その人の考えや大切にしていることを知っている医師でありたいと思っているからです。
終末期になってから初めて会った医師に、自分の人生や最期の希望をすぐに話すことは簡単ではありません。
治療中から顔を合わせ、痛みや副作用だけでなく、生活のこと、家族のこと、これから大切にしたいことを話しておく。その時間が、患者さんと医療者との信頼関係をつくります。
そして、通院が難しくなったときには、それまでの経過や患者さんの希望を知っている医師が、そのまま訪問診療へ移行して支える。
治療中から在宅療養、そして必要であれば在宅看取りまで、緩和ケアを切れ目なく届けたいと考えています。
「まだ早い」と思う時期が始めどき
訪問診療は、「もう通院できない」「もう時間がない」という段階になってから初めて考えるものではありません。
患者さんがまだご自身の希望を話すことができ、ご家族にも考える時間があるうちから、在宅医や訪問看護師とつながっておく。
そして、病状や希望が変わったときには、療養する場所を変えることも含めて、その時点で最も良い方法を一緒に考える。
それが、患者さんにとっての良い時間を守り、ご家族が安心して支えるための準備になると、私は考えています。
「訪問診療を受けるかどうか、まだ決めていない」「治療中だけれど、今後のことが少し不安」。そのような段階でもかまいません。
今通っている病院の主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、あるいは地域で在宅医療を行うクリニックへ、まずは今後の療養について相談してみてください。
しのみや緩和ケア内科クリニック
院長 四宮 敏章
参考情報
国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/relaxation/index.html




